教員が生徒の教育成果に持つ影響について考えた論文をまとめる。例によって論文読んだ時のメモとして残しており、校正などは一切おこなっていないことをご了承ください。
Chingos, M. M., & Peterson, P. E. (2011). It’s easier to pick a good teacher than to train one: Familiar and new results on the correlates of teacher effectiveness. Economics of Education Review, 30(3), 449-465.
Papay, J. P., & Kraft, M. A. (2015). Productivity returns to experience in the teacher labor market: Methodological challenges and new evidence on long-term career improvement. Journal of Public Economics, 130, 105-119.
教員の有効性と教員免許はどの様な関係にあるのだろうか。教員の質保証政策の一貫で教員免許の取得を厳しくすることなどが政策ターゲットになることなどがあるが、そもそも教員として資格を取得することが果たして教員としての質を高めるなんていうことはあるのか?
小学校 Clotfelter,Ladd, and Vigdor 2006, 2007a, 2007b; Goldhaber and Anthony 2007; Rockoff 2004)
Clotfelter, C. T., Ladd, H. F., & Vigdor, J. L. (2010). Teacher credentials and student achievement in high school a cross-subject analysis with student fixed effects. Journal of Human Resources, 45(3), 655-681.
多くの研究で言われている流れとして、教員の履歴書上の特性は教育成果に対して重要ではなく、その一方て教授方法とかそのプロセスは非常に重要なのではないかということがある(Aslam & Kingdom、HanushekのTQ論文とか)。
Goldhaber, D. D., & Brewer, D. J. (1997). Why don’t schools and teachers seem to matter? Assessing the impact of unobservables on educational productivity. Journal of Human Resources, 32(3), 505-524.
生徒が自身の担任のピアの教員から受ける影響を推定
リフレクションプロブレムの問題をどうやってクリアするか
” To avoid the reflection problem (Charles F. Manski 1993), we use two measures of peer quality that are not determined by contact with peers: observable peer characteristics that change exogenously, such as experience and certification test scores; and unobservable peer quality based on teacher-specific, time-invariant, value-added estimates from pre-sample data.”
まあこれはわかる。でもピアの定義にはいまだに内生性が残りうる。(後述するが)ある教員のピアの定義は、所属する学校の所属する学年の教員。つまりセレクションが発生しうるところとして、「学校」と「学年」がある。
(悩み)次にそのセレクションを除くための固定効果を考えるんだけど、ここをもっとシステマティックに出せないかな、、、と。今のところ職人的な気がする。うううむ。「ある学校に入るのは教員と学校のマッチング」だから、教員固定効果と学校固定効果を入れることがとりあえず必然って感じかな。そんでさらに、time-variant factorにも対応するために、後述の教員学校固定効果や学校年度効果に拡張するって感じかな。
“To ensure that we do not use changes in peer quality due to teacher self-selection, we identify the changes in the performance of a teacher’s students that are correlated with changes in the composition of her peers within the same school by including teacher-school fixed effects.”
“(私訳)教員のセルフセレクションによるピアの変動を用いないことを保証するため、教員学校固定効果を入れることによって同じ学校の中で教員ピアの変動と相関する生徒たちのパフォーマンスの変動を用いた。”
うーん、セルフセレクションっていうのは「できれば(性質の良い)ピアの学校で教えたいと教員は思う」とかそういう話か?ともかく、ピアの変動は、教員の同じ学校の中でのre-assign、peerの(これは学校に関わらない)re-assignによってのみ起きるってことだな。
なんで教員固定効果だけじゃダメなんだろう、、、と考えたが、教員が自ら「良い」学校に転職すればピアも良くなるし生徒も良くなるという内生性が発生すると。
例えばハリケーンを学校が襲って、「良い」教員が学校から退出するとする。同時に子供のパフォーマンスも落ちるとする。こんなような関係があるかもしれないよね。他にも、学校が突然「良い」教員ばっか雇用し始めるとかね。そのため学校年度固定効果で対処。
そのため「ある年に突然、ある学年に良い教員を集めた!」みたいなことが起きてたら、バイアス発生。でもそんなことがないのは検証済みだよ。
ここでのピアの定義は同じ学校の同じ学年をピアの定義としている。これがかなり重要な想定で、普通に考えたらピアの影響なんて同じ学年だけではなく同じ学校の教員からも受けるはず。それにも関わらず(推定上の都合で)ピアの定義を狭めている。そのためここで分析されるピア効果は、実際のピア効果のlower boundであることに注意しよう。
スピルオーバー効果は強いし、特に経験浅い教員だとよりよい同僚を持つことの効果は高いとさ。
気になる:
“We can evaluate the selection bias due to unobserved teacher characteristics using the approach of Altonji, Elder, and Taber (2005). “”
気になる:
”Can measurement error explain the results?” 実際に変な回答によるバイアスの発生具合をシミュレーションによって分析(これもsignal extractionっぽい).
Bietenbeck, J. (2014). Teaching practices and cognitive skills. Labour Economics, 30, 143-153.
within-school approach
(イントロより)
「子供の教育成果に対する授業方法の因果効果を得るのは難しい課題である。それは2つのセレクションに対処することを要求する。すなわち、学校間のsortingと学校内のsortingである。私たちの分析手法は学校内のクラス間の授業方法についての及びテストスコア変動を使って、ランダムに発生するとは言えないような生徒や教員の学校間のsortingに対処している。しかし、学校内でのsortingに対処するのは簡単ではない。授業の方法は科目というよりむしろクラスごとに違うものであり、そのため私たちは生徒内変動を用いることができない。またクラスごとに異なる先生(伊藤:原文にはtutorとあるが先生とは別?そんなわけないよね)がいるから、先生内のバリエーションを使うことも難しい。そのため私たちは学校内のsortingがどれくらい結果に対して問題になるかを評価するような分析をを行なった。私たちは学校内で教員のセレクションが発生している証拠を見つけることはできなかった。(省略)。しかし私たちは完全に観察不可能な異質性に対処できたとは言えず、結果的に推定値をcausalだとすることには慎重になる必要がある」
例えば次の様に行った後、within–school selectionがどの程度発生しているかを図ろうとしている。
“Even after controlling for the endogenous selection of students to schools, unobserved traits of the student (μics) and the teacher (ηcs) may additionally create within–school endogeneity issues and lead to a biased estimate of γ.”
この後”3.1. Within–school selection of students, teachers and teaching style”でその程度を測定していて、これは重要なので読んでおく。
教員の効果を測定する手法として、非常に頻繁に用いられるのは教員付加価値である。これは教育生産関数のインプットというより、むしろアウトプットを評価しているという点に注意を払う必要がある。すなわち、一般に教員能力といえば子供の人的資本を促進するものだと考えるが、ここではその結果である。そのため、この教員効果がインプットにもなりうるという点は別で評価する必要がある(→教員付加価値のcausal impactを評価する一連の研究)。
多くの場合教員効果を推定するときは、次の様なモデル化を行う(Jackson, Rockoff & Staiger(2014)に従っているが、文中での意図と書かれている数式が違うと思うので勝手に直している。)。
\[A _ { ijt } = \beta X _ { ijt } + \nu _ { ijt } \quad where \quad \nu _ { ijt } = \theta _ { j } + \mu _ { jt } + \varepsilon _ { ijt }\]iは生徒、jは教員、tは時間を指し、Aは教育成果、Xは生徒の個人特性、$\nu$は観察不可能な要因を表す。$\nu$は教員効果$\theta$、クラスルーム効果$\mu$、その他の要因$\varepsilon$で構成されるとする。 上記式から$A _ { i t } - \beta X _ { i t } $は教員効果$\theta$についての情報を持つがその中には今関心がないノイズである$\mu$と$\varepsilon$を含んでいる。そのため、多くの研究はsingal extraction問題を解くことで教員効果を推定している。
ノイズを含む信号から真の情報を抽出する問題を一般にsingal extractionと言う。 よく使う定理として次を挙げることができる。
signal extraction 定理
$\theta$についてのpriorとして
とした時に、次の様なシグナルの集合$X = \{x_i | i \in I \}$を受け取るとする。
\[\begin{eqnarray} x_i &=& \theta + \epsilon_i \\\\ && where \\ \epsilon_i &\sim& N(0, 1/\rho_i ) \\ Cov(\epsilon_i, \epsilon_j) &=& 0 (i \neq j) \end{eqnarray}\]この時、$\theta$に関する予想は
\[\begin{eqnarray} E(\theta | X) &=& \frac{\rho}{\rho ^ { \prime }} m + \sum _ { i = 1, i \in I} \frac{\rho_i}{\rho ^ { \prime }} x _ { i } \\ V(\theta | X) &=& 1 / \rho ^ { \prime } \\ && where \\ \rho ^ { \prime } &=& \rho + \sum _ { i = 1, i \in I} \rho _ { i } \end{eqnarray}\]となるように更新される。
直感的にはpriorも含めて情報の正確さで重み付けをしていって、fundamental variableを更新していく手続きである。
この時、先の教育生産関数の式は教員効果$\theta _ {j}$についての次の様なシグナルなのではないかと考えることができる。
\[s_{ijt} = A _ { ijt } - \beta X_{ ijt } = \theta _ {j} + \mu _ {jt} + \varepsilon _ {ijt}\]ただし先ほどのsignal extractionのセットアップだとシグナルのノイズ間に相関がないというセットアップだったので、このままでは使えない。そのため、次の様なセットアップに書き直す(害はない)。教員jがt期に担当している生徒を$I_{jt}$と書けば、
\[\begin{eqnarray} s_{jt} &=& \frac{\sum_{i, i \in I_{jt}} s_{ijt}}{\|I_{jt}\|} \\ &=& \theta _ {j} + \mu _ {jt} + \frac{\sum_{i, i \in I_{jt}} \varepsilon _ {ijt}}{\|I_{jt}\|} \\ &=& \theta _ {j} + v_{jt} \end{eqnarray}\]という教員効果$\theta _ {j}$についてのシグナルを毎期受け取ると考えることができる。
もし教員効果$\theta _ {j}$に対するpriorが期待値0及び分散$V(\theta)$であり、上記シグナルをt期分受け取ると上記のsignal extraction定理より(そのシグナルの集合を$s_j = \{s_{jt} | t \in T \}$と書くことにする)、
\begin{eqnarray} E(\theta | s_j ) &=& \sum_{t, t \in T} s_{jt} \frac{ \frac{1}{V(v_{jt})} }{ \frac{1}{V(\theta)} + \sum_{t, t \in T}\frac{1}{ V(v_{jt})} } \end{eqnarray}
と教員jの効果$\theta$の期待値を書くことができる。
多くの場合は得られたデータから、$V(\theta)$や$V(v_{jt})$を無理やり(?)計算して妥当性の高いpriorを構成した後、期待値を計算することが多い。
さらに、Lefgren&Sims(2012)などはシグナルをさらに集約して、 \begin{eqnarray} s_{j} = \theta _ {j} + \frac{\sum_{t, t \in T} v_{jt}}{ || T || } \end{eqnarray} と書いて、$V(\frac{\sum_{t, t \in T} v_{jt}}{|T|}) = \frac{V(v_j)}{|T|}$と書くことで($V(v_j)$というものをどっかから調達してくるということ)、
\[\begin{eqnarray} E(\theta | s_j ) &=& s_{j} \times \frac{ \frac{1}{\frac{V(v_j)}{\|T\|}}}{ \frac{1}{V(\theta)} + \frac{1}{\frac{V(v_j)}{\|T\|}} } \\ &=& s_{j} \times \frac{V(\theta)}{V(\theta) + \frac{V(v_j)}{\|T \|}} \end{eqnarray}\]と教員効果を構成している。
( ただし初期の研究では、クラスの効果と教員の効果を分けていない研究も結構ある。
The earliest studies by Hanushek and Murnane, as well as work by Nye et al. (2004), did not distinguish between classroom and teacher effects. This limitation is essentially what separates these early studies from more recent work, beginning with Rockoff (2004), Rivkin et al. (2005), and Aaronson et al. (2007). In nearly all studies in this literature, teacher effects are assumed to be fully persistent or fixed across classrooms. We discuss recent papers that relax this assumption below.
)
Kane, T. J., & Staiger, D. O. (2008). Estimating teacher impacts on student achievement: An experimental evaluation (No. w14607). National Bureau of Economic Research.
Lefgren, L., & Sims, D. (2012). Using subject test scores efficiently to predict teacher value-added. Educational Evaluation and Policy Analysis, 34(1), 109-121. 個人的には一番丁寧かつ、subject別ではない取り出しみたいな取り組みをしていて面白かった。
Our VA model implies that a 1 standard deviation (SD) improvement in teacher VA raises normalized test scores by approximately 0.14 SD in math and 0.1 SD in English, slightly larger than the estimates in prior studies which do not account for drift.
Jacob, B. A., & Lefgren, L. (2008). Can principals identify effective teachers? Evidence on subjective performance evaluation in education. Journal of labor Economics, 26(1), 101-136.
chetty(2013, a)によれば教員付加価値に本質的な意味があるか否かという立場には次の観点があるとしている。すなわち、
という問題を抱えている。chetty論文がすごいのはこの2つに同時に解決を与えた研究を行ったというところで、正直、これら2つはすでにクリアされている。
学校費は教育関連支出において大きなウェイトを占めるのにもかかわらず、コールマンレポートによって学校の支出は教育達成に影響を与えていないことを報告していらい、学校はどのように子供に影響を持っているかは重要な関心の対象になってきた。
Assessing the Variance in Pupil Attainment: How Important is the School Attended? David Wilkinson, Alex Bryson, Lucy Stokes
学校の重要性の報告
While most of the international achievement datasets are cross-sectional, Singh (2015) uses a longitudinal dataset that observes individual students at ages 5 and 8 in four developing countries. The findings show that the large cross-country learning gaps between low-performing Peru and high-performing Vietnam (apparent earlier in Table 1) are virtually nonexistent at school-entry age.
学校入学時には国際的なレベルでの学力差はないらしい。
Ammermueller, Andreas, and Jörn-Steffen Pischke. 2009. “Peer Effects in European Primary Schools: Evidence from the Progress in Interna-tional Reading Literacy Study.” Journal of Labor Economics 27(3): 315–48.
Bloom, Nicholas, Renata Lemos, Raffaella Sadun, and John Van Reenen. 2015. “Does Management Matter in Schools?” Economic Journal125(584): 647–74
Gilpin, G., & Kaganovich, M. (2012). The quantity and quality of teachers: Dynamics of the trade-off. Journal of Public Economics, 96(3-4), 417-429.